「老健からは、いつか出ないといけない」——そう聞いて、急に不安になる方は少なくありません。
私は老健(介護老人保健施設)の支援相談員として働いていますが、退所の話が出たとたん「じゃあ、次はどこへ?」と戸惑うご家族に、何度もお会いしてきました。
先に結論をお伝えします。老健からの行き先は、大きく分けて6つあります。そして「どれが正解か」はご家庭ごとに違います。
この記事は、その6つの行き先を一望できる「地図」のようなページです。それぞれの特徴をつかんでから、くわしく知りたい行き先の記事へ進んでいただけます。

全体像さえ見えれば、「何も知らないまま話が進んでしまった」という不安は、ずいぶん軽くなります。


退所の話が出たのに、行き先を知らなかった——ちづるさん
ちづるさん(仮名・55歳)のお父さんは、脳梗塞のリハビリのため老健に入所していました。入所から3か月ほど経ったころ、支援相談員から「そろそろ今後のことを一緒に考えましょう」と声をかけられます。
ちづるさんは頭が真っ白になりました。「退所と言われても、どこに行けばいいのか、選択肢すら分からない」。行き先を知らないまま話だけが進むと、限られた時間の中で焦って決めることになりがちです。
そこでちづるさんは、老健を出たあとの行き先には主に6つのパターンがあることを知りました。全体像が見えたことで、「うちの父にはどれが合いそうか」と、落ち着いて考えられるようになったのです。
ちづるさんが特別だったわけではありません。行き先の地図を持っていなかっただけです。地図さえあれば、同じように動けるようになります。



【相談員への一言】「今後のことを考えたいので、うちの場合はどんな行き先が候補になるか、一緒に整理してもらえますか?」——この一言で、選択肢の全体像を教えてもらえます。
転所を考えるのはいつか
老健は「在宅復帰を目指す施設」という性格を持っているため、入所したあとも原則3か月ごとに、入所を続けるかどうかの見直しがあります。



この見直しのタイミングで、今後の行き先の話が出てくることが多いです。
「3か月で追い出される」という意味ではありません。状態やご家庭の事情に応じて、入所が延長されることもあります。ただ「いつか出る前提の施設である」ことは、早めに知っておくと心の準備がしやすくなります。
この3か月ごとの見直しの仕組みは、別記事でくわしく解説しています(この記事の末尾からたどれます)。あわせて読むと、退所の話が出るタイミングをつかみやすくなります。
老健からの6つの行き先


ここからが、この記事の中心です。老健を出たあとの主な行き先を、順番に見ていきましょう。それぞれ2〜3行の要約と、くわしく解説した記事へのリンクを添えています。気になる行き先から読んでみてください。
① 家に帰る(在宅復帰)
老健が本来もっとも力を入れているのが、この在宅復帰です。リハビリで生活の力を取り戻し、住み慣れた自宅へ戻ります。介護保険の在宅サービスを組み合わせれば、家族の介護負担を分散できます。
「家で介護できる環境が整いつつある」ご家庭に向いています。退所前の準備が結果を左右するので、早めの動き出しが安心です。


② 別の老健へ移る
意外に思われるかもしれませんが、別の老健へ移るという選択肢もあります。転居先の近くの老健に移る、より在宅復帰に力を入れた老健で集中的にリハビリを続ける、といったケースです。
「リハビリをもう少し続けたい」「引っ越し先の近くに移りたい」というご家庭で候補になります。


③ 特養(特別養護老人ホーム)へ
在宅が難しく、費用を抑えて長く暮らせる場所を探すなら、特養が候補です。原則要介護3以上が対象で、費用は比較的おさえめですが、地域によっては入所まで数か月から年単位の待機がある点は知っておきたいところです。
「在宅は難しい」「費用は抑えたい」「入所まで少し待てる」というご家庭に向いています。


④ 介護付き有料老人ホームへ
すぐに手厚い介護を受けたい場合は、介護付き有料老人ホームが候補になります。入所のハードルが比較的低く、空きがあれば早めに入れることが多いのが特徴です。
そのぶん月額費用は特養より高くなる傾向があります。「費用をかけてでも、早く安心できる環境に移りたい」というご家庭に向いています。


⑤ 介護医療院へ(医療的ケアが必要なとき)
たんの吸引や経管栄養(口から食べられない方に管で栄養を送る方法)など、日常的な医療的ケアが続く場合は、介護医療院が候補です。医療と介護、そして生活の場を兼ね備えた施設です。
「医療的ケアが欠かせない」「長期の療養が必要」というご家庭で選ばれます。


⑥ グループホームへ(認知症のとき)
認知症の診断があり、少人数の落ち着いた環境が合いそうなら、グループホームが候補です。5〜9人ほどの少人数で、家庭に近い雰囲気の中で暮らします。
「認知症の症状がある」「大きな施設よりも小規模な環境が合う」というご家庭に向いています。


わが家に合う行き先の選び方
6つの行き先を見てきましたが、「結局うちはどれ?」と迷いますよね。判断の軸は、大きく5つあります。
・在宅で介護できる環境があるか
・日常的な医療的ケアが必要か
・認知症の症状があるか
・費用をどこまでかけられるか
・入所までどのくらい待てるか
この5つの軸を、行き先と照らし合わせたのが次の表です。あくまで「候補になりやすい」目安として見てください。
| こんなご家庭は | 候補になりやすい行き先 |
|---|---|
| 家で介護できる環境が整いつつある | ① 家に帰る(在宅復帰) |
| リハビリを続けたい/別の地域へ移りたい | ② 別の老健へ移る |
| 在宅は難しい・費用は抑えたい・入所まで待てる | ③ 特養へ |
| 費用をかけてでも早く手厚い介護に移りたい | ④ 介護付き有料老人ホームへ |
| たん吸引・経管栄養など医療的ケアが続く | ⑤ 介護医療院へ |
| 認知症の症状があり少人数の環境が合う | ⑥ グループホームへ |
表はあくまで出発点です。実際には複数の条件が重なるため、ひとつに絞りきれないことのほうが多いです。そんなときは、抱え込まずに相談員へ声をかけてみてください。
・「わが家は何を優先したいか」を1つ決めておく
・迷ったら、まず老健の相談員に候補を整理してもらうのが近道
・気になる行き先は、実際に見学して空気感を確かめる
・費用と待機期間は、早めに具体的な数字で確認しておく



【迷ったときの一言】「うちの状況だと、現実的にどの行き先が候補になりますか?」——遠慮なく相談員に聞いて大丈夫です。それを整理するのが相談員の仕事です。
行き先が決まったら——転所の手続き
行き先の方向性が見えてきたら、次は具体的な手続きです。申し込みの流れ、当日の持ち物、そして老健で過ごした間の情報をどう次の施設へ引き継ぐか——このあたりは、別記事にまとめました。
手続きでつまずきやすいのが、情報の引き継ぎです。リハビリの状況や服薬、生活のリズムがうまく伝わらないと、次の場所で一からやり直しになりがちです。



【次の施設への一言】「老健でのリハビリの様子や生活リズムを引き継ぎたいので、書面でまとめてもらえますか?」と頼むと、伝え漏れを防げます。


よくある質問


Q. 行き先は自分たちで探すのですか?
すべてをご家族だけで探す必要はありません。老健の支援相談員や担当ケアマネジャーが、候補の施設探しや情報集めを一緒に進めてくれます。まずは「今後のことを相談したい」と声をかけるところからで大丈夫です。
Q. 複数の施設に同時に申し込んでもいいですか?
はい、複数の施設へ同時に申し込むことはよくあります。とくに特養など待機がある施設では、複数申し込みが一般的です。それぞれの施設に、他にも申し込んでいる旨を伝えておくと、話がスムーズです。
Q. どうしても決められないときは?
迷って当然の選択です。決められないときは、いったん「何を優先したいか」に立ち返ると、候補が絞りやすくなります。それでも難しければ、相談員やケアマネと一緒に、条件を紙に書き出して整理してみてください。
まとめ
・老健はいつか出る施設。行き先は主に6つある
・① 在宅復帰、② 別の老健、③ 特養、④ 介護付き有料、⑤ 介護医療院、⑥ グループホーム
・正解はご家庭ごとに違う。「在宅・医療的ケア・認知症・費用・待機」の5つの軸で考える
・3か月ごとの見直しで退所の話が出やすい。早めに全体像をつかんでおくと安心
・迷ったら、老健の支援相談員に候補を整理してもらうのが近道
・行き先が決まったら、次の施設への情報の引き継ぎをていねいに



珈琲一杯分の時間、お付き合いいただきありがとうございました。
メガネ
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家に帰るか、施設か——迷っているなら


出典・参考
- 厚生労働省「介護老人保健施設の基本報酬及び加算について」(令和6年度介護報酬改定)
- 厚生労働省「特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)の概要」
- 介護サービス情報公表システム(kaigokensaku.mhlw.go.jp)
※制度・要件・対象は令和6年度介護報酬改定時点の情報です。最新情報は担当ケアマネジャーまたは市区町村にご確認ください。
最終更新日:2026年9月









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