老健から在宅へ——退所前に家族が準備しておくべきこと

老健から在宅復帰に向けた準備(住宅改修・サービス手配・カンファレンス)の流れを示した図

「そろそろ在宅に戻れそうですよ」——老健のスタッフからそう言われたとき、家族はうれしい反面、「本当に大丈夫だろうか」と不安になることがあります。

老健からの在宅復帰は、「退所するその日に準備が整っていること」が前提です。環境・サービス・家族の体制——この3つが揃っていないと、帰宅後すぐに問題が起きることがあります。「帰ってきてから考えよう」では間に合いません。

退所が決まったら、やることは意外と多い。住宅改修の申請・在宅サービスの手配・退所前カンファレンスへの参加——知っておけばあわてずに動けます。

退所日が決まってから動き始めると、手すりの設置やサービスの調整が間に合わないことがあります。「在宅に戻れそう」と言われた段階から、準備を始めることが大切です。

私は老健の施設相談員として18年、在宅復帰に向けた退所準備を何度も支援してきました。今日はその経験から、退所前に家族が知っておくべき流れと準備のポイントをお伝えします。

目次

Sさんの話——「帰る日が決まってから、大慌てになった」

Sさん(仮名・51歳)のお母さん(78歳)が、脳梗塞のリハビリのために老健に入所して2か月。担当の理学療法士から「歩行が安定してきたので、そろそろ在宅復帰を検討できます」と連絡がありました。

Sさんは喜びましたが、「帰ってから何を準備すればいいか」が分からなかった。退所日が2週間後に決まってから、一気にやることが押し寄せてきました。手すりの設置、ヘルパーの手配、デイサービスの見学——すべてが同時に動き始めました。

「もっと早く動き始めれば良かった」——Sさんはそう話してくれました。退所日の2日前にようやく手すりが取り付けられ、ギリギリ間に合いました。

在宅に戻るための3つの条件

老健が「在宅復帰できる」と判断するとき、主に3つの点を確認しています。

・本人の身体機能:日常生活に必要な動作(歩行・トイレ・食事)がある程度できているか
・自宅の環境:段差・手すり・トイレの位置など、本人の状態に合っているか
・在宅サービスと家族の体制:ヘルパー・デイサービスなどで足りない部分を補えるか

この3つのうち、家族が準備できるのは「環境」と「サービス体制」の2つです。本人の身体機能は老健のリハビリチームが整えてくれていますが、自宅の環境と在宅サービスは家族が動かないと整いません。

「帰ってみたら動けなかった」という事態を防ぐために、退所前に老健のスタッフと一緒に確認することが重要です。

【老健スタッフへの一言】
「在宅に戻ったとき、特に気をつけるべきことはどこですか?」

退所前カンファレンスで確認すること

老健を退所する前に、退所前カンファレンス(担当者会議)が開かれます。本人・家族・老健スタッフ・ケアマネジャーが集まり、在宅での生活をどう整えるかを話し合う場です。可能であれば家族全員(または主な介護者)が参加することを勧めます。

カンファレンスで確認しておきたいポイントはこちらです。

・自宅での生活で「できること・できないこと」の整理(スタッフから説明を受ける)
・必要な在宅サービス(ヘルパー・デイサービス・訪問看護など)の種類と頻度
・住宅改修が必要な箇所(手すり・段差解消・トイレ改修など)
・緊急時の連絡先と対応フロー(夜間・休日に何かあったときどうするか)
・次回の外来受診・かかりつけ医への申し送りの確認

カンファレンスで決まった内容は、必ずメモしておくことを勧めます。帰宅後に「あのとき何を言われたか」を確認したいとき、メモがないと思い出せないことがあります。録音してもいいか事前に確認しておくと安心です。

【カンファレンスで聞く一言】
「帰ってから特に気をつけてほしいことを、3つ教えてもらえますか?」

退所前に整えておく「自宅の環境」

老健のリハビリスタッフや相談員に「自宅の間取り図を見せてほしい」と言われることがあります。帰宅前に自宅の環境を確認して、必要な改修を提案してもらうためです。この「退所前の自宅確認」は、できれば担当のPTやOTと一緒に行うことが理想的です。

住宅改修でよく対応する箇所は以下のとおりです。

・玄関の段差解消・手すり設置(屋外から室内への移動を安全に)
・廊下・階段の手すり設置(転倒リスクの高い場所を優先)
・トイレの手すり設置・洋式化(和式トイレは立ち座りが難しい)
・浴室の手すり・すのこ・シャワーチェアの設置
・寝室の環境整備(ベッドの高さ・布団からベッドへの変更)

住宅改修は介護保険で1人あたり上限20万円まで補助されます(要介護・要支援認定者)。工事が完了してからしか申請できないため、退所日より前に工事が終わるよう逆算して動く必要があります。ケアマネジャーに「住宅改修の申請と工事、退所日までに間に合いますか?」と確認してください。

在宅サービスを組み合わせる

在宅に戻ってからの生活を支えるために、介護保険サービスを組み合わせます。担当のケアマネジャーが「ケアプラン」を作成し、必要なサービスを手配してくれます。

・訪問介護(ヘルパー):身体介護・生活援助。食事・入浴・排泄の介助など
・通所介護(デイサービス):日中の生活支援とリハビリ。社会参加・外出の機会に
・通所リハビリ(デイケア):老健や病院付設。リハビリを継続したい場合に
・訪問看護:医療的ケアが必要な場合。服薬管理・傷の処置・病状観察など
・福祉用具貸与:車いす・歩行器・特殊寝台(介護ベッド)などをレンタル

サービスの開始は退所日から、または退所の翌日からが理想です。退所後の最初の数日間は特に不安定になりやすいため、この期間にヘルパーや訪問看護が入るよう手配しておくと安心です。ケアマネジャーに「退所日当日か翌日から始めてほしい」と伝えてください。

【ケアマネへの一言】
「退所日の翌日からヘルパーに入ってもらえるよう、間に合いますか?」

よくある質問

Q. 老健の退所後も、老健のリハビリを続けることはできますか?

できます。退所後は「通所リハビリ(デイケア)」として、老健のリハビリを外来で継続することができます。同じスタッフに継続してもらえる場合も多く、「退所=リハビリ終了」ではありません。退所前に「退所後もリハビリを続けたい」と担当スタッフに伝えておきましょう。

Q. 帰宅後、思っていたより介護が大変だった場合はどうすればいいですか?

まずケアマネジャーに連絡してください。サービスの回数を増やす・内容を変えるなど、プランの見直しが可能です。「帰ってみたら大変だった」は在宅復帰あるあるです。遠慮せずに「もう少しサポートが必要です」と伝えることが、長続きする在宅介護につながります。

Q. 在宅に戻ってうまくいかなかった場合、また施設に戻ることはできますか?

できます。老健に短期間(ショートステイ)として戻ることや、別の施設に移行することも選択肢としてあります。「在宅復帰=ずっと在宅でなければならない」ではありません。状況が変わればまたケアマネジャーに相談し、一番合った選択をすることができます。

ポケットに入れて帰っていただきたい、ひとつだけ

「在宅に戻れそう」と言われた日が、準備のスタートです。

退所日が決まってから動き始めると、時間が足りなくなります。ケアマネジャーに「退所の見通しが出た」と伝えるだけで、住宅改修・サービス手配・カンファレンスの段取りを一緒に進めてもらえます

次の行動|今日からできること

・老健のスタッフに「在宅復帰の見通し」を確認し、ケアマネジャーに伝える
・自宅の間取り図を準備して「住宅改修が必要な箇所」を老健スタッフに相談する
・退所前カンファレンスの日程を確認し、参加できる家族を調整する

1つだけでいいです。動き始めると、次が見えてきます。

珈琲一杯分の時間、お付き合いいただきありがとうございました。

メガネ

出典・参考

  • 厚生労働省「介護老人保健施設について」 https://www.mhlw.go.jp/
  • 厚生労働省「住宅改修について」 https://www.mhlw.go.jp/
  • 公益財団法人 長寿科学振興財団「在宅介護サービス」 https://www.tyojyu.or.jp/

※サービス内容・費用・住宅改修の補助額は地域・状況によって異なります。担当のケアマネジャーにご確認ください。
最終更新日:2026年6月

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この記事を書いた人

メガネのアバター メガネ 理学療法士、社会福祉士、ケアマネ

PT(理学療法士)×社会福祉士×ケアマネジャーの三刀流。
介護の現場で感じたことを珈琲一杯分ずつ率直に届けます。
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