「『さっき食べたでしょ』と何度も言ってしまって、自己嫌悪になります」
認知症の親を介護している家族から、本当によく聞きます。
結論からお伝えします。認知症の親と暮らすときに大事なのは、「困った行動」を「理解」に変える3つの視点を持つことです。これを知っているかどうかで、毎日の介護のしんどさが大きく変わります。
「本人の世界」から見る
「事実」より「気持ち」を受け止める
「100%」を求めない
私は理学療法士・社会福祉士として現場で18年、施設の相談員として、認知症の親に向き合うご家族を何度も見てきました。今日はその経験から、明日からの介護が少しでも楽になる3つの視点をお伝えします。
ある家族の話
Uさん(仮名)は60代の女性で、80代の認知症のお母さまと同居していました。お母さまは食事のあと5分も経たないうちに「ご飯まだ?」と聞いてくる毎日。
最初は優しく「さっき食べたよ」と答えていたUさんも、3ヶ月もすると疲れ果てて「もう、何回言わせるの!」と声を荒げてしまうように。
「母を責めても仕方ないと分かっているのに、止められない」と、Uさんは涙ぐみながら相談に来らレました。
私はその場で、こうお伝えしました。
「**お母さまは『忘れている』のではなく、『食べたという記憶そのものがない世界にいる』**んです。だから、お母さまの世界の中では『まだ食べていない』が真実なんです」
Uさんは少しの間黙って、「そうか……母にとっては、本当にまだ食べていないんだ」と呟きました。
その後、Uさんは「ご飯まだ?」と聞かれたら、「もうすぐできるよ、ちょっと座って待っててね」と、お茶を出すように変えました。お母さまも穏やかに座って待ち、また同じ質問が来ても、同じように対応する。
「訂正しないだけで、こんなにお互いが楽になるとは……」とUさんは言いました。
なぜ「困った行動」が起きるのか
認知症の「困った行動」と呼ばれるものには、必ず本人なりの理由があります。
「ご飯まだ?」と何度も聞く → 記憶が定着しないので、本当に食べていないと感じる
夜中に起きて家の中をうろうろする → 時間の感覚が崩れて、夜だと分からない
「お金を盗まれた」と訴える → 物がどこにあるか分からない不安を、誰かのせいにすることで処理する
同じ話を何度もする → 新しい話題が浮かばない、または安心できる話を繰り返す
家族から見たら「困った」でも、本人にとっては自然な反応であることがほとんどです。
ここを知っているかどうかで、家族の心の負担が大きく変わります。
3つの視点で「困った」を「理解」に変える

視点①|「本人の世界」から見る
認知症の方は、本人なりの「世界」の中で生きている。私たちから見ると間違っていることでも、本人にとっては真実です。
たとえば:
「ご飯まだ?」 → 本人にとっては本当にまだ食べていない
「ここはどこ?」 → 本人にとっては本当に知らない場所
「あの人誰?」 → 本人にとっては本当に初対面
これを訂正するのではなく、本人の世界に合わせるのが基本です。「もうすぐご飯にしようね」「ここはお家だよ、安心して」「私は◯◯です、よろしくね」と、本人の世界の中で自然に答えてあげる。
今夜できる1行スクリプト:

「もうすぐご飯にしようね、ちょっと座って待ってて」
視点②|「事実」より「気持ち」を受け止める
認知症の方が訴える内容の事実は、間違っていることが多い。でも、気持ちは本物です。
「そうか、不安なんだね。一緒にお茶飲もうか」
「家に帰りたい」と言う(自宅にいるのに)→ 事実は違っても、**「今のここに居心地の悪さ」「安心したい」**気持ちは本物
事実を訂正すると、本人は**「分かってもらえない」**と感じて、さらに不安が強くなります。気持ちに寄り添うだけで、症状が落ち着くことがよくあります。
今夜できる1行スクリプト:



「そうか、不安なんだね。一緒にお茶飲もうか」
「お金は盗まれてないよ」と否定する前に、まず気持ちを受け止める。
視点③|「100%」を求めない
認知症の介護は長期戦です。家族が**「完璧にケアしよう」**と思うと、必ず潰れます。
許していい3つ:
イライラしてしまう自分を許す(人間として自然な反応)
手抜きする日を許す(プロのサービスを使う日があっていい)
預ける日を許す(デイサービス・ショートステイで休む)
「100%自分で見る」家族ほど、早く折れます。70点で続ける家族の方が、長く介護を続けられます。
今夜できる1行スクリプト(自分への言葉):



「今日は70点でいい。明日また、できる範囲で」
知っておきたい|認知症の家族が使える支援
地域包括支援センター:認知症初期集中支援チームを紹介してもらえる
公益社団法人 認知症の人と家族の会:同じ立場の家族と繋がれる
認知症カフェ:気軽に立ち寄れる地域の交流の場
訪問介護・デイサービス:プロのケアを定期的に取り入れる
ショートステイ:数日〜数週間の宿泊で家族が休む
詳しい使い方は、お住まいの地域包括支援センターに「認知症のことで相談したい」と一言伝えれば、繋いでもらえます。
ポケットに入れて帰っていただきたい、ひとつだけ
最後に、今夜あなたのポケットに入れて帰っていただきたいひとつだけ、お渡しします。



認知症の親と暮らすコツは、訂正しないこと。 本人の世界に合わせて、気持ちを受け止めて、100%を求めない——この3つで、明日が変わる。
「訂正したくなる気持ち」は、家族としてはごく自然な反応です。でも、訂正するたびに、本人も家族も疲れます。3つの視点に切り替えるだけで、毎日のしんどさが半減する——これは現場で繰り返し見てきた事実です。
次の行動|今夜できる3つ
3つの視点のうち、今夜のうちに1つだけを試してみてください。
- 親に同じ質問をされたとき、訂正せず、本人の世界に合わせて答えてみる
- 親が訴えていることがあれば、事実を返す前に**「そうなんだね」と気持ちを受け止める**
- 自分に対して**「今日は70点でOK」**と一度声に出してみる
3つのうち1つだけでいいです。「訂正しないだけで楽になる」を、まず体験してみてください。
このブログでは、こうした「家族が動くための具体的な手順」を、これからもひとつずつ書いていきます。関連記事として、






もよかったらどうぞ。
珈琲一杯分の時間、お付き合いいただきありがとうございました。
メガネ
出典・参考
- 厚生労働省「認知症施策」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000076236.html
- 公益社団法人 認知症の人と家族の会 https://www.alzheimer.or.jp/
- 国立長寿医療研究センター「もの忘れセンター」
- 厚生労働省「認知症ケアパス」
※認知症の症状・進行は、お一人お一人で大きく違います。 個別の対応については、かかりつけ医・地域包括支援センター・専門医(認知症サポート医など)にご相談ください。
最終更新日:2026年5月








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