「来週退院です」——その一言を聞いたとき、頭の中が真っ白になった方は少なくありません。
何をすればいいのか。誰に連絡すればいいのか。本当に家に帰れる状態なのか。
情報だけはあちこちに転がっていて、何から動けばいいかわからないまま時間だけが過ぎていく。そんな状態で退院当日を迎えてしまう家族を、現場で何度も見てきました。
この記事では、退院が決まってから在宅介護が始まるまでの「準備期間」にやっておくべき3つの確認をまとめます。
PT(理学療法士)・ケアマネジャー・社会福祉士として現場18年、施設相談員として関わってきた経験をもとに、できるだけ具体的にお伝えします。読み終えたときに「今日から動ける」状態になることをゴールにしています。
なぜ退院「前」に動くことが重要なのか
退院当日は、思っている以上に慌ただしいものです。
会計の手続き、書類への署名、荷物の片付け、移動——家に帰り着いたときには、家族も本人もへとへとな状態になっていることがほとんどです。そこから動き始めるのでは、追いつかない場合があります。
介護保険の申請から認定まで、平均30日前後かかります。退院後に申請すると、ヘルパーさんや福祉用具が使えないまま1か月以上が過ぎることがあります。
準備は、退院前にしておくに越したことはありません。難しいことをする必要はなく、「確認する」「連絡を入れておく」というステップだけで大丈夫です。

確認①:介護保険の申請状況
まず確認してほしいのが、介護保険の申請を済ませているかどうかです。
現場でよく見るのは、「申請のことを知らなかった」という家族です。実は、申請は入院中でも行えます。
入院中でも家族が代わりに申請できます
手続き先は、本人の住所がある市区町村の「介護保険課」または「高齢者福祉課」です。電話で「介護保険の新規申請をしたい」と伝えるだけで、必要書類や流れを教えてもらえます。入院先の「医療ソーシャルワーカー(MSW)」に相談すれば、申請の手続きをサポートしてもらえる場合もあります。
申請が通ると、訪問介護・デイサービス・福祉用具の貸し出しなどを1〜3割の自己負担で利用できるようになります。認定が出る前でも、仮にケアマネジャーを決めておくことができます。
・市区町村に電話または窓口へ → 申請書を提出
・認定調査(自宅や病室で、生活状況を確認する面談)
・主治医の意見書が病院から提出される
・認定結果が通知される(平均30日前後)

今日から使える一言
「介護保険の申請を、入院中に家族が代わりに出すことはできますか?」
市区町村の窓口や病院のMSWに、そのまま使えます。
確認②:退院後に必要な医療的なケアの内容
次に確認してほしいのが、退院後の医療的なケアの内容です。
脳梗塞・骨折・心不全など、入院のきっかけとなった病状によっては、自宅に帰った後も医療的なケアが続く場合があります。「大丈夫だろう」と思って確認しないまま帰宅してから問題が起きる、というケースを現場でよく見ます。
特に確認しておきたいのは、以下の3点です。
・服薬の管理——どんな薬を、いつ、何錠飲むのか。本人一人で管理できるか、家族が関わる必要があるか
・訪問看護が必要かどうか——傷のケア、体調管理、リハビリのために週に何回来てもらうかの確認
・訪問診療(在宅医)が必要かどうか——定期的に医師に自宅で診てもらう体制が要るかどうか
退院前カンファレンスを活用してください
これらを確認する場として、「退院前カンファレンス」(退院前会議)があります。医師・看護師・リハビリスタッフと家族が一緒に「退院後の生活をどう進めるか」を話し合う場です。
まだ実施されていない場合は、担当看護師やMSWに「退院前に話し合いの場を作ってもらえますか」と声をかけるだけで調整してもらえます。特別な手続きは必要ありません。
退院後の最初の1週間は、体調が不安定になりやすい時期です。「具合が悪くなったらどこに電話すればいいか」を退院前に確認しておくだけで、家族の安心感がまったく変わります。



今日から使える一言
「退院後の薬の管理と、訪問看護の必要性について教えてもらえますか?」
担当看護師またはMSWに、そのまま使えます。
確認③:自宅の環境
3つ目は、自宅の環境を事前に確認しておくことです。
理学療法士として長く働く中で、「退院前に確認しておいてよかった」と最も感じるのがこの住環境の確認です。退院当日に帰宅してから気づいても、その日に環境を整えることはほぼできません。前もって確認しておくことで、安全に自宅生活をスタートできます。
チェックしておきたい場所と視点
玄関まわり
・玄関の段差の高さ(5cm以上になると転倒リスクが上がります)
・手すりの有無
・靴の脱ぎ履きをする場所のスペース
トイレ・浴室
・便座の高さ(低すぎると立ち上がりが困難になることがあります)
・ドアの形(開き戸は中で倒れたとき外から開けにくいことがあります)
・浴室の手すりの有無と位置
寝室から日常の動線
・寝室からトイレまでの距離と途中の段差
・夜間の照明の状況
気になる箇所があれば、「住宅改修」という選択肢もあります。介護保険を使うと、上限20万円の工事が1〜3割負担で行えます(手すりの設置・段差の解消など)。
介護用ベッド・歩行器・車いすなどの福祉用具も、介護保険でレンタルできます。ケアマネジャーが決まっていれば、一緒に自宅を見て回って必要なものを確認してもらえます。



今日から使える一言
「退院前に、自宅の環境を専門家に確認してもらえますか?」
病院のMSWまたはケアマネジャーに、そのまま使えます。
タイムライン|退院〇日前にやること
退院の日程が決まったら、このタイムラインを参考にしてみてください。
退院2週間前
・介護保険の申請状況を確認する(未申請なら今すぐ手続き)
・仮のケアマネジャーを決めておく(病院のMSWに相談すると紹介してもらえます)
退院1週間前
・退院前カンファレンスに参加する
・服薬の管理方法・訪問看護の必要性を確認する
・緊急時の連絡先(訪問診療医・訪問看護ステーションなど)を確認する
退院3日前
・自宅の環境を確認する(玄関・トイレ・浴室を写真に撮っておくと相談しやすいです)
・福祉用具の手配を開始する(ケアマネジャーと相談)
・帰宅当日の移動手段を確認する(タクシー・介護タクシー・自家用車)
退院前日
・薬の受け取りと内容の確認
・帰宅後すぐに使うもの(飲み物・食事・着替えなど)の準備
よくある質問
Q. 介護保険の申請は、本人が入院中でもできますか?
できます。本人の住所がある市区町村の窓口に、家族が代わりに申請できます。必要なのは介護保険被保険者証(健康保険証とは別のもの)と印鑑程度です。病院のMSWに相談すると、書き方も教えてもらえます。
Q. 福祉用具(歩行器・介護ベッドなど)はいつから借りられますか?
介護保険の認定が出た後から、原則として利用できます。認定が出るまでに時間がかかる場合は、一時的に自費でレンタルしながら認定を待つという選択肢もあります。ケアマネジャーが決まっていれば、一番スムーズな方法を一緒に考えてもらえます。
Q. 退院前カンファレンスとは何ですか?参加した方がいいですか?
退院後の生活についてスタッフと家族が一緒に話し合う場です。仕事で参加が難しい場合は「電話でも参加できますか」と聞いてみてください。対応してくれる病院は少なくありません。
今日から動けること
この記事を読んだ今日、まずこの3つを確認してみてください。
・介護保険の申請状況を確認する(未申請なら市区町村または病院のMSWへ連絡)
・退院前カンファレンスの日程を確認する(担当看護師またはMSWに聞く)
・自宅の気になる場所をスマホで3枚撮っておく(玄関・トイレ・浴室)
退院後ではなく退院前に動いておくことが、在宅介護の出発点を変えます。
情報が多すぎて混乱するのは、あなたが弱いからではなく、ただ知らなかっただけです。知れば動けます。



退院前に動いておくことが、在宅介護の出発点を変えます。まずは「介護保険の申請状況」と「退院前カンファレンスの日程」を今日中に確認してみてください。
珈琲一杯分の時間、お付き合いいただきありがとうございました。メガネ
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出典・参考
- 厚生労働省「介護保険制度について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/index.html
- 厚生労働省「退院支援・退院調整」https://www.mhlw.go.jp/
- 公益社団法人 日本理学療法士協会 https://www.japanpt.or.jp/
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の状況については、お住まいの地域包括支援センターまたは担当ケアマネジャーにご相談ください。
最終確認日:2026年6月









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