「来週退院です」
入院中のご家族について、病院から急にそう告げられて、頭が真っ白になっていませんか。「まだ家で看られる状態じゃない」「準備なんて何もできていない」「そもそも何から手をつければいいの?」——そう感じるのは当然です。でも、まず一つだけお伝えさせてください。焦らなくて大丈夫です。やるべきことは決まっていますし、あなた一人で背負う必要もありません。
私は理学療法士・社会福祉士・ケアマネジャーとして、病院から在宅へ移る場面に何度も立ち会ってきました。この記事では、その経験をもとに「退院を告げられてから在宅介護を始めるまで」に必要なことを、順番どおりに、できるだけやさしく解説します。
退院は「拒否」ではなく「調整」できるもの
最初に、一番大きな不安に答えます。
「まだ無理です、と言ったら見放されるのでは」と心配される方が多いのですが、退院は病院から一方的に押し出されるものではなく、家族・病院・在宅の支援者が一緒に「調整」していくものです。
「来週」と言われても、本当にその日に放り出されるわけではありません。準備が整うまでの相談窓口があり、調整の時間を確保することもできます。まずは「追い出される」という受け止めを、「準備を整えるフェーズに入った」と置き換えてみてください。ここで気持ちが少し落ち着くはずです。
なぜ病院は退院を急ぐの?——仕組みを知れば慌てない
「ついこの間入院したばかりなのに、もう退院なんて」と感じる背景には、病院側の仕組みがあります。
日本の病院は、入院が長くなるほど受け取れる報酬が下がっていく仕組みになっています。そのため病院は、状態がある程度落ち着くと退院・転院を進めようとします。これはあなたのご家族が嫌われたわけでも、見放されたわけでもなく、制度上そうなっているだけです。
この仕組みを知っておくと、「冷たい」と感じて病院と対立するのではなく、「では次の場所をどう整えるか」と前向きに相談に入れます。
退院までにやることリスト(時系列)

慌てているときほど「結局、何を、どの順番で?」が知りたいはず。上から順に進めれば大丈夫です。
・① 退院前カンファレンスに参加する
・② MSW・退院調整看護師に相談する
・③ ケアマネ/地域包括支援センターに連絡する
・④ 要介護認定を申請する
・⑤ 自宅の環境を整える(手すり・段差・福祉用具)
・⑥ 在宅サービスを組む
① 退院前カンファレンスに、ぜひ参加する
病院では、退院前に医師・看護師・リハビリ職などが集まって今後の方針を話し合う場(退院前カンファレンス)が開かれることがあります。家族はここに参加できますし、ぜひ参加してください。在宅での不安、できること・できないことを正直に伝える絶好の機会です。「家ではここが心配」と言っていいのです。

そのまま使える一言: 「退院前カンファレンスに家族も参加できますか?在宅での不安を伝えたいのですが」
② MSW(医療ソーシャルワーカー)・退院調整看護師に相談する
多くの病院には、退院の相談に乗ってくれる専門職がいます。医療ソーシャルワーカー(MSW)や退院調整看護師です。「何から動けばいいか分からない」と正直に伝えれば、次のステップを一緒に整理してくれます。遠慮はいりません。これが彼らの仕事です。



そのまま使える一言: 「退院の準備について何も分からないのですが、相談員の方に話を聞いていただけますか?」
③ ケアマネジャー/地域包括支援センターに連絡する
すでに介護保険のサービスを使っている場合は、担当のケアマネジャーへ。まだ使っていない場合は、お住まいの地域の地域包括支援センターに連絡します。ここは高齢者の相談を無料で受けてくれる窓口で、在宅介護の入口になります。場所が分からなければ、市区町村の役所か②のMSWに聞けば教えてもらえます。
④ 要介護認定の申請をする
在宅で介護保険サービスを使うには「要介護認定」が必要です。市区町村の窓口か地域包括支援センターで申請します。
認定結果が出るまでには通常1か月ほどかかりますが、「退院に間に合わない!」と焦らなくて大丈夫。認定の効力は申請した日までさかのぼるため、結果を待たずに「暫定」でサービスを始めることもできます。ここはケアマネが調整してくれる部分なので、早めに③とつないでおきましょう。
⑤ 自宅の環境を整える
退院後の生活で意外と大きいのが、家の中の段差や移動のしにくさです。介護保険を使えば次の支援が受けられます。
・住宅改修:手すりの取り付け・段差の解消(上限20万円・自己負担1〜3割)
・福祉用具レンタル:介護ベッド・車いす・歩行器など
・福祉用具購入:シャワーチェア・ポータブルトイレなど
理学療法士の視点で言うと、退院前に自宅の動線を一度見直しておくだけで、転倒のリスクがぐっと下がります。OT(作業療法士)が自宅を訪問して環境を確認してくれることもあります。ケアマネに相談してみてください。
⑥ 在宅サービスを組む
最後に、日々の生活を支えるサービスを組み合わせます。どれを、どのくらい使うかはケアマネがプラン(ケアプラン)を作ってくれます。
・訪問看護:体調管理・医療処置・医師との連携
・訪問リハビリ:PT・OT・STが自宅でリハビリ
・訪問介護:入浴・食事・排泄などの身体介護と生活支援
・通所介護(デイサービス):日中の預かり・入浴・交流
・通所リハビリ(デイケア):専門職によるリハビリ
・短期入所(ショートステイ):家族の休憩にも活用できる
「家で看られるか不安」への現実的な答え
ここまで読んで、それでも「やっぱり自分に看られるだろうか」と不安な方へ。
在宅介護は、家族が一人で全部やるものではありません。むしろ「いかに自分で抱え込まずに、サービスと役割を分担するか」が成功のカギです。
たとえば、平日の日中はデイサービス、週に数回は訪問看護とリハビリ、入浴は施設で——というように組み合わせれば、家族の負担は現実的なところまで下げられます。現場でよく見るのは、うまくいくご家庭ほど「全部やろうとしていない」ということです。完璧を目指さなくて大丈夫です。
お金はどれくらいかかる?
費用は誰もが気になるところですが、まずざっくり全体像だけお伝えします。
・介護保険サービスの自己負担は原則1〜3割(所得によって変わる)
・使える量には毎月の上限(区分支給限度基準額)が要介護度ごとにある
・自己負担が高額になった場合は「高額介護サービス費」で一部戻ってくる
「思っていたより負担を抑えられる仕組みがある」とだけ、まず知っておいてください。
退院後のリハビリを止めないために
理学療法士として、特にお伝えしたいことがあります。退院後にリハビリをぱったり止めてしまうと、せっかく回復した力が落ちてしまうことが少なくありません。
病院でのリハビリが終わっても、自宅で続ける方法があります。それが訪問リハビリです。リハビリの専門職が自宅に来て、その人の生活環境に合わせて身体の使い方や動作の練習をサポートします。「退院=リハビリ終了」ではないことを、ぜひ覚えておいてください。
ポケットに入れて帰っていただきたい、ひとつだけ
「来週退院です」と言われたとき、最初にすることはひとつだけです。
「相談できる相手」に一本連絡を入れること。MSWでも、ケアマネでも、地域包括でも——どこからでも大丈夫です。そこから先は、専門職が一緒に整えてくれます。あなたが一人で抱え込まないことが、ご本人にとっても、あなた自身にとっても、いちばん大切な準備です。



退院前にやること、6つ。
①カンファ参加 ②MSW相談 ③ケアマネ連絡
④認定申請 ⑤自宅整備 ⑥サービスを組む
まず②か③に、今日一本連絡を。
珈琲一杯分の時間、お付き合いいただきありがとうございました。メガネ
次の行動|今日できること
難しく考えなくて大丈夫です。1つだけやってみてください。
・病院のMSW・退院調整看護師に「相談したい」と声をかける
・お住まいの地域包括支援センターを検索して電話番号を控える
・退院前カンファレンスへの参加を病棟スタッフに申し出る
関連記事として、




もよかったらどうぞ。
出典・参考
- 厚生労働省「介護保険制度の概要」(2024年度版)
- 厚生労働省「要介護認定の申請について」
- 厚生労働省「高額介護サービス費について」
- 厚生労働省「住宅改修費の支給について」
- 一般社団法人 日本医療社会福祉協会「医療ソーシャルワーカーとは」
※本記事は在宅介護の準備に関する一般的な情報です。個別の状況については、お住まいの地域包括支援センターや担当ケアマネジャーにご相談ください。
最終確認日:2026年6月









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