老健から老健へ移れる?——制度上は「できます」。でも相談員の私は、あまり勧めていません

「そろそろ退所に向けて、次を考えましょう」——老健の相談員からそう言われた。

でも、家で看るのはむずかしい。特養は申し込んだけれど、順番はまだ先。そんなとき、ふと頭に浮かぶ疑問があると思います。

「……別の老健に、移ることはできないんだろうか?」

先に結論を言います。

制度上は、できます。でも、相談員の私は、あまりお勧めしていません。

「できるのに勧めない」——変に聞こえるかもしれません。この記事では、その理由を包み隠さずお話しします。そのうえで、「それでも移る意味があるケース」もあわせてお伝えします。老健の現役相談員の、正直な話です。

目次

まず前提:老健から老健へは、制度上「できる」

老健から別の老健へ移ること自体に、制度上の制限はありません。実際に移る方もいますし、「前は別の老健にいました」という入所相談も受けます。

だから、「そんなこと聞いていいのかな」と後ろめたく思う必要はありません。聞いていい質問です。

ただ——「できる」と「移る意味がある」は、別の話なんです。

私があまり勧めない理由

理由1:リハビリの「集中期間」は、移ってもリセットされない

ここが、いちばん知られていないポイントです。

老健には、入所からの一定期間、リハビリを手厚く受けられる仕組み(短期集中リハビリテーション実施加算)があります。「じゃあ、別の老健に移れば、またゼロから手厚いリハビリが受けられるのでは?」——そう考える方がいます。

残念ながら、なりません。

この加算の算定要件には、「過去3か月の間に、介護老人保健施設に入所したことがないこと」が定められています(厚生労働省 老企第40号通知)。

ここでいう「介護老人保健施設」は今いる施設だけでなく、どこの老健も含みます。つまり、別の老健に移っても過去の入所歴は通算されるため、元の老健での算定期間が経過していない限り、新しい施設でリセットして手厚いリハビリを受け直すことはできないのです。

「老健を移ってリハビリをやり直す」という作戦は、制度上成立しません。

(なお、4週間以上の入院を挟んだ再入所や、脳卒中などを急性発症した場合など、例外的に再算定できるケースも定められています。個別の事情については相談員に確認してください。)

理由2:老健同士は、思っているほど違わない

「今の施設より、もっとリハビリが充実したところへ」という気持ちも分かります。

ただ、老健は制度上どこも同じ枠組みで運営されています。リハビリ職の配置、医師の常駐、看護体制——基本の型は共通です。加算の細かな違いはあっても、家族が期待するほどの劇的な差は、施設間にはあまりありません。

環境を変える労力に対して、得られる変化が小さい。これが、私が勧めない実感的な理由です。

理由3:移ること自体に、負担がかかる

住み替えには、本人の環境変化のストレス、書類のやり取り、移動の実費、薬や医療方針の引き継ぎ——見えないコストが積み重なります。特に認知症のある方にとって、環境の変化は小さくない負担です。

得られるものが小さく、失うものが確実にある。だから私は、相談を受けたとき「制度上はできますよ。ただ……」と、この話をしています。

それでも「移る意味がある」ケース

ここまで読んで「じゃあ全部意味がないのか」というと、そうでもありません。私が「それなら分かります」と思うケースもあります。

費用面のメリットがあるケース

住民税非課税世帯などで負担限度額認定(減免制度)を使っている方は、老健の居住費・食費が軽減されています。この減免は移った先の老健でも引き続き使えるので、もともとの費用負担が抑えられている方にとって、老健は「待機期間を過ごす場所」として費用的に現実的です。有料老人ホームでつなぐより、ずっと負担が軽い。

距離や面会のしやすさが変わるケース

自宅や家族の職場から近い老健に移れば、面会の頻度が変わります。会いに行ける距離は、本人にも家族にも意味があります。

受け入れは「施設による」——正直なところ

ただし、どの老健でも受け入れてくれるわけではありません。施設ごとに事情(ベッドの空き、医療対応の範囲、運営方針)があり、正直、施設によります。だから「移れるかどうか」は、机の上で悩むより、まず話をしてみるのが早い。

断られても、あなたの家族が悪いわけではありません。施設側の事情です。

いちばん伝えたいこと:選択肢は「老健から老健」だけじゃない

そもそも、なぜ「別の老健」を考え始めたのでしょうか。

多くの場合、その奥にあるのは「特養はまだ入れない」「家では看られない」という行き場のなさです。その解決策は、実は老健の住み替えだけではありません。

・介護度や状況によっては、特養の申し込み先を増やす・見直すことで道が開ける方もいます(待機の状況は施設ごとにかなり違います)
・一方で、要介護度や医療的な事情で特養がむずかしい方もいます
・在宅に、サービスを厚く入れて帰る道が残っている方もいます

どれが「わが家の答え」かは、状況次第です。そして、その状況を一緒に整理するのが、相談員とケアマネの仕事です。

「老健から老健へ移れますか?」と聞いてもらって構いません。ただ、できればもう一歩踏み込んで、

「行き場がなくて困っています。選択肢を一緒に整理してもらえませんか」と聞いてみてください。

私たちは、あなたが思っているより、たくさんの選択肢を持っています。

まとめ

・老健から老健への住み替えは、制度上はできる
・ただし、リハビリの集中期間はリセットされず、施設間の差も小さいため、相談員としてはあまり勧めない
・例外は、減免制度が効く方の費用面と、面会距離——ここにはメリットがある
・受け入れは施設によるので、話をしてみる価値はある
・選択肢は住み替えだけではない。相談員・ケアマネに「一緒に整理してほしい」と伝えてほしい

「できるかどうか」より、「わが家にとって意味があるかどうか」。それを一緒に考えるために、私たち相談員がいます。

珈琲一杯分の時間、お付き合いいただきありがとうございました。メガネ

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出典・参考

  • 厚生労働省「短期集中リハビリテーション実施加算について」老企第40号通知
  • 厚生労働省「介護老人保健施設の概要」https://www.mhlw.go.jp/
  • 公益財団法人 長寿科学振興財団「老人保健施設」https://www.tyojyu.or.jp/

※費用・算定要件は施設・地域・個人の状況によって異なります。担当のケアマネジャーまたは各施設にご確認ください。
最終更新日:2026年7月

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この記事を書いた人

メガネのアバター メガネ 理学療法士、社会福祉士、ケアマネ

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