老健から在宅に戻るとき、家族がやること——退所支援の実際を相談員が解説

「来月退所です」——老健からそう連絡が来たとき、うれしい反面、何から動けばいいか分からなくなる家族は多いです。

老健(介護老人保健施設)でのリハビリが順調でも、自宅への受け入れ準備が整っていなければ、退所後の生活はすぐに行き詰まります。この記事では、退所に向けて家族が事前にやることを、退所支援の実際を踏まえて解説します。現役の老健相談員として多くの退所に立ち会ってきた視点から、正直に書きます。

目次

Kさんの話——「退所って、何をすればいいんですか?」

Kさん(仮名・54歳)のお父さん(81歳)は、大腿骨骨折の手術後に老健へ入所し、リハビリを続けていました。

入所から3か月後、相談員から「来月退所できそうです」と連絡が入りました。Kさんは喜んだものの、「退所って、何をすればいいんですか?」と聞き返すことしかできませんでした。自宅はまだバリアフリーになっていない。訪問介護もデイサービスも契約していない。ケアマネも決まっていない。「できれば退所の2週間前までに準備を整えてほしい」と言われ、Kさんは初めて自分の準備不足に気づきました

退所日まであと3週間。Kさんは相談員と二人三脚で、ここから急ピッチで準備を進めました。「もっと早く知っていれば……」というのが、後日Kさんが話してくれた言葉です。

老健の退所支援——何が行われているか

老健には、退所支援を担う介護支援専門員(ケアマネ)や社会福祉士の相談員がいます。退所が近づくと、在宅生活に向けた調整が始まります。

・退所の目途が決まる(医師・リハスタッフが機能評価をもとに判断)
・退所前カンファレンスの開催(本人・家族・老健・在宅ケアマネが参加)
・在宅ケアプランの作成(在宅ケアマネが担当)
・訪問サービス・通所サービスの手配と契約
・住宅改修・福祉用具の準備

老健側がすべてやってくれるわけではありません。家族が動かなければ進まない準備が、いくつもあります。

①退所前カンファレンスには必ず参加する

退所前カンファレンスは、退所の1〜2週間前に行われることが多く、本人・家族・老健スタッフ(医師・PT・OT・相談員)・在宅ケアマネが集まって在宅生活の方針を確認する場です。

ここで決まることは多岐にわたります。どんな動作補助が必要か、自宅で注意すべきリスクは何か、どのサービスをどのくらい使うか——カンファレンスを欠席すると、自宅での生活イメージが家族の中で共有されないまま退所日を迎えてしまいます

【今日から使える一言】「退所前カンファレンスはいつですか?家族も参加できますか?」——退所が近づいたら相談員にそのまま聞いてみてください。

②退所の1か月前までにケアマネを決める

在宅に戻ったあとのケアプランは、老健のケアマネではなく、在宅のケアマネジャー(居宅介護支援事業所)が担当します。退所前にケアマネを決め、在宅でのサービス計画を立ててもらう必要があります。

ケアマネを決めずに退所日を迎えると、訪問介護もデイサービスも開始できません。退所日から逆算して、少なくとも1か月前には在宅ケアマネを選んでおくことを強くすすめます。

ケアマネの探し方は、老健の相談員に「在宅のケアマネを紹介してほしい」と依頼するのが最も確実です。地域の居宅介護支援事業所を紹介してもらえます。

③自宅の環境を整える——手すり・段差・住宅改修

老健でどれだけ歩けるようになっても、自宅の段差が残っていれば転倒リスクになります。退所前に自宅の環境を整えることは、在宅生活を安定させるための基本です。

介護保険を使った住宅改修は、工事費の9割(上限20万円まで)が給付されます。手すりの設置・段差解消・滑り止め・引き戸への変更などが対象です。申請はケアマネが代行できます。

・玄関・浴室・トイレへの手すり設置
・廊下・居室の段差解消(スロープ設置など)
・浴室の滑り止めマット・シャワーチェアの準備
・介護ベッドのレンタル検討(高さ調整ができるもの)
・夜間の移動を助ける足元ライトの設置

福祉用具(車いす・歩行器・介護ベッドなど)は介護保険でレンタルできます。購入より負担が少なく、状態の変化に合わせて変更もできます。

④退所後に使う在宅サービスを決めておく

退所後すぐに在宅サービスが使えるよう、事前に契約・手配が必要です。サービスは「訪問系」と「通所系」の組み合わせで考えます。

・訪問介護——入浴・排泄・食事などの身体介助を自宅で受ける
・訪問リハビリ——PT・OT・STが自宅に来てリハビリを継続する
・通所介護(デイサービス)——日中の活動・入浴・食事を施設で提供
・通所リハビリ(デイケア)——老健や病院のリハスタッフによるリハビリ
・福祉用具貸与——車いす・歩行器・介護ベッドなどを月額でレンタル

老健でのリハビリを在宅でも継続したい場合は、訪問リハビリの利用がおすすめです。週1〜3回、PTやOTが自宅を訪問します。老健の担当セラピストに「訪問リハビリを継続したい」と伝えておくと、引き継ぎがスムーズです。

⑤かかりつけ医への移行を確認する

老健在所中は老健の医師が主治医になりますが、退所後は地域のかかりつけ医に移ります。退所前に「どの病院にかかればいいか」を確認しておかないと、退所後に受診先が定まらないまま過ごすことになります

老健の相談員か担当医に「退所後のかかりつけ医はどこがいいですか」と確認しておきましょう。紹介状(診療情報提供書)を書いてもらえます。

今日から動けること

・退所の目途が出た方:相談員に「退所前カンファレンスの日程」を確認する
・ケアマネが未定の方:相談員に「在宅ケアマネを紹介してほしい」と伝える
・自宅環境が未整備の方:「住宅改修について教えてほしい」とケアマネに相談する
・退所後の医療が不安な方:「退所後のかかりつけ医をどこにすればいいか」を担当医に確認する

退所は、在宅介護のスタートです。老健でできるようになったことを、自宅でも続けていくための準備——それが退所支援の本質です。家族が動けば、その分だけ在宅生活は安定します。

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珈琲一杯分の時間、お付き合いいただきありがとうございました。メガネ

出典・参考

  • 厚生労働省「介護老人保健施設の役割と今後の方向性」https://www.mhlw.go.jp/
  • 厚生労働省「住宅改修について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/jutaku/index.html
  • 介護保険法(住宅改修・福祉用具貸与に関する規定)
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この記事を書いた人

メガネのアバター メガネ 理学療法士、社会福祉士、ケアマネ

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