珈琲が冷めていた。
デスクの上に置いたまま、書類に追われて気づいたら30分が過ぎていた。「あとで飲もう」と思っていたのに、気づいたときにはもう、温かさが消えていた。
後回しにした電話のことを思う。
「そのうちかけよう」「もう少し落ち着いたら」「週末になったら」——介護の相談窓口に電話しようと思いながら、ずっと後回しにしてきた家族を、現場でたくさん見てきた。半年後、1年後にようやく来て、「もっと早く来ればよかった」と言う。その言葉を、何度聞いただろう。
責めているわけではない。忙しい毎日の中で、「まだ大丈夫」と思いたい気持ちはよく分かる。介護の相談窓口に電話するということは、「もう大丈夫じゃないかもしれない」と認めることでもある。それは、思った以上に勇気がいることだと思っている。

でも、珈琲は温かいうちが一番おいしい。
相談も、気になったそのときが、一番動きやすい。問題が大きくなってからでは、選べる選択肢が減ることがある。「まだ早いかな」と思ったときが、実はちょうどいいタイミングだったりする。
冷めてしまった珈琲も、温め直せばまた飲める。電話も、今からかけられる。「もっと早く来ればよかった」と言う人に、私はいつもこう返す。「今日来てくれたことが、一番のタイミングです」と。
それは本当のことだと思っている。後回しにしてきた時間が無駄だったわけじゃない。その時間があったから、今日ここに来られたのかもしれないから。
珈琲が、少し冷めた。もう一杯、淹れよう。
メガネ

コメント