「家の中で転んで、骨折したんです」
ご家族から相談を受けるなかで、本当によく聞きます。
実は、高齢者の転倒事故の約半数は家の中で起きています。屋外より、慣れているはずの家の中のほうが、転倒リスクが高い——これが現場の現実です。
結論からお伝えします。家の中の転倒は、ほぼ予防できます。お金をかける必要も、大掛かりな工事も要りません。リビング・寝室・お風呂の3部屋を、今夜10のポイントでチェックするだけで、転倒リスクは劇的に下がります。
私は理学療法士として、現場で18年間、高齢者の歩行と転倒予防を見てきました。福祉住環境コーディネーター2級も保有し、いまは施設の相談員として、ご家族から「自宅の安全対策」の相談も日常的に受けています。
今日は、PT・福祉住環境の視点で、家族が今夜できる10のチェックポイントを場所別にまとめます。最後に、今夜から動ける具体的な3つの行動も置いておきます。
ある家族の話
Jさん(仮名)の80代のお母さまは、要介護2で在宅介護中でした。お母さまは家のことを自分でこなしていて、Jさんも「まだ大丈夫」と思っていました。
ある夜、お母さまが寝室からトイレに向かう途中、暗い廊下でスリッパが脱げて転倒。大腿骨を骨折し、入院。退院後の歩行はかなり悪くなりました。
Jさんが後で言ったのは、こんな言葉でした。
「家の中はいつもの場所だから、危ないなんて思っていなかったんです。手すりも、夜の照明も、もっと早く整えておけば防げたかもしれない……」
これは現場でよく聞く後悔です。家族には見えにくい家の中のリスクを、PTの目線で先に見つけておく——これが転倒予防の第一歩です。
なぜ「家の中」で転倒が起きるのか
理学療法士から見ると、家の中の転倒には共通の理由が3つあります。
1. 加齢で「足が上がらなくなっている」のに、家の配置が変わっていない
歳をとると、すり足歩行になります。本人は気付かないので、昔と同じ家の配置のまま——その結果、わずかな段差や敷物の端に足を引っかけて転びます。
2. 夜の暗さ+寝起き直後の不安定さ
夜中のトイレが一番危ない場面です。寝起き直後は血圧が下がっていて、めまいが起きやすい。そこに暗さが加わると、足元が見えず転倒につながります。
3. お風呂の濡れ・温度差・狭さ
お風呂は滑る・寒暖差で血圧が変動・狭くて体勢を立て直しにくい——転倒3要素が揃った場所です。
この3つを家族の目で見ていくと、改善できるポイントがいくつも見えてきます。
場所別・家族が今夜できる10のチェック
ここからは、今夜から見ていける具体的なチェックです。

リビングの3チェック
①敷物の端がめくれていないか
カーペットやラグの端は、すり足で歩く高齢者の最大の敵です。端がめくれていたら、両面テープで固定するか、思い切って撤去を。
②床に物が置きっぱなしになっていないか
新聞・雑誌・配線コード。本人は「いつもの場所」と思っているので、避けて歩く意識がありません。床面はできるだけスッキリにしておくのが基本。
③ソファ・椅子の高さは、立ち上がりやすいか
座面が低すぎる椅子は、立ち上がる時に体が前に投げ出されやすくなります。両足が床にしっかり付き、両膝が90度くらいになる高さが理想。座布団で調整できます。
今夜使える1行スクリプト:
「お母さん、このマット端っこめくれてて危ないから、シール貼っていい?」
寝室の4チェック
④ベッドの高さは、座って足が床に届くか
ベッドが高すぎると、立ち上がりや座る時にバランスを崩します。座面に腰掛けたとき、両足が床にしっかり届く高さが安全。
⑤寝室からトイレまでの動線に、夜間照明はあるか
人感センサーの足元照明(1個1,000〜3,000円)を、廊下・トイレ前に1〜2個置くだけで夜間転倒は大きく減ります。
⑥寝室の床に、めくれた敷物や配線コードはないか
寝起き直後は不安定です。裸足で歩く動線を、目で追って確認してください。
⑦スリッパは、かかとが固定されるタイプか
スリッパはサンダルタイプではなく、かかとが押さえられるタイプを選ぶ。「脱げる」ことが転倒の最大原因のひとつです。
今夜使える1行スクリプト:
「お父さん、夜中のトイレ、暗くない?人感ライトを1つ付けてみよう」
お風呂の3チェック
⑧浴室と脱衣所に、手すりはあるか
浴室の出入り口・浴槽の縁・洗い場——この3カ所に手すりがあると、転倒リスクが激減します。介護保険の住宅改修費を使えば、自己負担1〜3割で設置できる場合があります。
⑨滑り止めマット・シャワーチェアはあるか
浴槽の中の滑り止めマット、洗い場のシャワーチェア——どちらも介護保険の福祉用具の購入の対象になることがあります。
⑩冬場、脱衣所と浴室の温度差は10℃以内になっているか
ヒートショック予防の鉄則です。脱衣所に小型ヒーターを置くだけでも、温度差は大きく縮まります。
今夜使える1行スクリプト:
「お風呂、入り口に手すりがあったら楽じゃない?介護保険で安く付けられるみたいだよ」
ポケットに入れて帰っていただきたい、ひとつだけ
最後に、今夜あなたのポケットに入れて帰っていただきたいひとつだけ、お渡しします。

家の中の転倒は、ほぼ予防できる。 リビング・寝室・お風呂の3部屋を、家族の目で1度チェックする。
転んでから後悔するご家族を、現場で繰り返し見てきました。1度の転倒で、寝たきりに近づくこともある——だからこそ、今夜の10チェックが、ご両親の数年後の暮らしを変えます。


次の行動|今夜できる3つ
家の中を歩きながら、今夜のうちに次の3つから1つだけを動かしてみてください。
- 寝室からトイレまでの動線を歩いて、敷物・配線・暗さを目視チェックする
- 親に「お風呂の手すり、つけてもいい?」と聞いてみる(介護保険の住宅改修費の対象になる可能性あり)
- 担当ケアマネさんに「福祉用具レンタルで手すりやシャワーチェアの相談がしたい」と電話する
3つのうち1つだけでいいので、今夜中に動いておくと、明日からの安心感が変わります。
このブログでは、こうした「家族が動くための具体的な手順」を、これからもひとつずつ書いていきます。関連記事として、
- 親に介護が必要かもしれない——見落としがちな5つのサイン
- 介護にいくらかかる?月額の目安と、知っておきたい自己負担軽減の制度
もよかったらどうぞ。
珈琲一杯分の時間、お付き合いいただきありがとうございました。
メガネ
出典・参考
- 厚生労働省「介護予防」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000179486.html
- 厚生労働省「介護保険における住宅改修」
- 消費者庁「高齢者の家庭内事故」
- 公益社団法人 日本理学療法士協会「転倒予防」 https://www.japanpt.or.jp/
- 一般社団法人 日本福祉住環境協会
※介護保険の住宅改修費・福祉用具レンタルの対象範囲、自己負担額は、お住まいの市区町村やご本人の要介護度によって異なります。 具体的な手続きは、担当ケアマネジャー、または地域包括支援センターでご確認ください。
最終更新日:2026年5月





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