
「特養って、何年待ちですか?」——老健に入所して間もないご家族から、私がよく受ける質問です。
先に結論をお伝えします。特養の申込みに、早すぎるということはありません。老健に入所したその日から、次の行き先として特養を検討しはじめて大丈夫です。むしろ「まだ早いかも」と待っているあいだに、選べる施設が少しずつ狭まっていくことのほうが、現場ではよくあります。

とはいえ、「申込む=親を施設に入れる決定」ではありません。この記事では、老健から特養へ移りたいと考えたときの申込みのタイミング、待機中の過ごし方、費用の変化を、現役の支援相談員としてやさしく整理していきます。
「特養は何年待ちですか?」と聞かれて——ますみさんの話
ますみさん(仮名・56歳)のお父さんは、脳梗塞のあと病院を経て老健に入所しました。当初は「リハビリを頑張って自宅へ」と話していましたが、麻痺が思ったより残り、自宅での生活は難しそうだと分かってきました。
入所から2か月ほど経った面談で、私は「そろそろ特養の申込みも考えてみませんか」とお伝えしました。ますみさんは驚いた様子でした。「まだ入所したばかりなのに、もう次の話ですか。まだ早い気がして……」。この「まだ早い」という遠慮は、多くのご家族が口にされます。
私はこうお伝えしました。「特養は申込んでから入所まで時間がかかることが多いんです。だから、申込み自体は早めにしておいて、実際に入るかどうかは打診が来たときに決めれば大丈夫ですよ」。ますみさんはその日のうちに、候補になりそうな特養を相談員と一緒に3か所リストアップしました。この「早めの一手」が、あとで効いてきます。
もし申込みを先延ばしにしていたら、老健の退所期限が近づいてから慌てて探すことになり、選択肢はぐっと狭まっていたはずです。ますみさんの場合は、待機のあいだに家族で話し合う時間も取れました。早く動いたことが、気持ちの余裕につながったケースです。
特養の申込みはいつからできる?——答えは「今日から検討OK」
特養(特別養護老人ホーム)の申込みは、老健に入所している最中でも行えます。「老健を出てからでないと申込めない」というルールはありません。気になり始めた今日が、検討のスタートで問題ありません。
入所の対象は、原則として要介護3以上です。ただし例外もあります。要介護1〜2の方でも、認知症で在宅生活が難しい、家族による虐待のおそれがあるなど、やむを得ない事情があると認められれば「特例入所」として申込める場合があります。判断は施設や市区町村によって異なるため、気になる方は相談員に確認してみてください。

もうひとつ、ご家族に知っておいてほしいのが「複数の施設に同時に申込める」という点です。特養は1か所だけでなく、いくつかの施設へ並行して申込書を出せます。1か所目の順番を待ちながら、他の施設にも名前を載せておく——これが待機期間を短くする現実的な工夫です。
そして最も大切な安心材料。申込みは入所の義務ではありません。順番が来て打診を受けても、そのとき状況が変わっていれば断ることもできます。だから「まだ心の準備ができていない」段階でも、申込みだけ先にしておく、という進め方ができるのです。

【相談員に伝える一言】「まだ決めきれていないのですが、選択肢を残すために申込みだけ先にしておきたいです」——この一言で、相談員は動きやすくなります。
待機中はどこにいる?——老健に居続けられるかの実際
ここが、多くのご家族が一番不安に感じるところだと思います。「老健は3か月で出されると聞いた。特養の順番が来る前に、行き場がなくなるのでは?」。この不安に、建前ではなく現場の実際でお答えします。



まず前提として、老健は「在宅復帰を目指す施設」であり、終の棲家ではありません。
おおむね3か月ごとに、自宅へ戻れるか、退所の時期をどうするかを話し合う「退所前の判定」があります。



ここだけを聞くと「3か月で追い出される」と感じてしまいますが、実際には、状況を見ながら入所を延長できるケースは少なくありません。
老健には「在宅復帰率」という運営上の指標があり、施設としては入所者に自宅へ戻ってもらいたい事情があります。一方で、自宅に戻るのが難しく、次の行き先(特養など)を探している最中のご家族に対して、行き先が決まるまで機械的に退所を迫る施設ばかりではありません。



多くの相談員は「特養の申込みは進んでいますか」「待機はどのくらいですか」と状況を確認しながら、退所の時期を一緒に調整していきます。
とはいえ、この運用は施設ごとに差があります。在宅復帰に非常に力を入れている「超強化型」の老健では、退所の話が早めに出ることもあります。だからこそ、特養の申込みを早めにしておき、相談員に「特養の順番待ちです」と共有しておくことが、待機中の居場所を守る助けになります。
現場では、ひとつの老健で待ちきれないとき、別の老健へ移って待機をつなぐケースもあります。老健から老健へ移ることについては、こちらの記事で詳しく整理しています。


大切なのは、「黙って期限を待つ」のではなく、相談員と待機状況を共有しておくことです。行き先を探している最中だと分かっていれば、相談員も選択肢を一緒に考えてくれます。



【判定面談での一言】「特養を◯か所申込んで順番待ちです。行き先が決まるまで、退所の時期を一緒に相談させてください」——状況を共有すると、話がスムーズになります。
費用はどう変わる?——老健と特養の月額をざっくり比較
「特養に移ると、費用は上がるの?下がるの?」。ここでは正確な料金表ではなく、方向感をつかんでいただくために、ざっくりした目安で比較します。
表のとおり、月額の目安は老健と特養で大きくは変わりません。



どちらも多床室(相部屋)なら月8〜13万円前後、ユニット型個室なら月13〜20万円前後が、ひとつの目安です。
金額は要介護度・部屋のタイプ・所得によって変わるため、あくまで幅として受け取ってください。
費用を左右する大きな要素が「部屋のタイプ」です。相部屋(多床室)は費用が抑えられ、個室(ユニット型)は居住費が上がります。特養に移るときは、この部屋タイプの選択で月額が数万円変わってくる、とイメージしておくとよいでしょう。
そして忘れてほしくないのが「負担限度額認定」です。住民税非課税世帯など一定の条件にあてはまる方は、申請すると食費・居住費が軽減されます。この申請をしていないと、軽減が受けられず費用が高いままになります。老健でも特養でも使える制度なので、まだ申請していない方は相談員や市区町村の窓口に確認してみてください。



【窓口での一言】「負担限度額認定を申請したいのですが、うちは対象になりますか?」——この一問で、月々の負担が変わることがあります。
申込みから入所までの流れ——5ステップ
特養の申込みから実際の入所までは、おおむね次の5ステップで進みます。順番に見ていきましょう。


・ステップ1:申込み——市区町村の窓口や施設で申込書をもらい、必要事項を記入して施設に提出します
・ステップ2:調査・判定——施設が本人の状態や介護度、家庭の状況などを確認し、入所の優先度を判定します
・ステップ3:待機——順番を待ちます。数か月から、地域や施設によっては1年以上かかることもあります
・ステップ4:打診の連絡——空きが出ると施設から「入所できます」と連絡が入ります
・ステップ5:入所——契約・面談を経て入所します



ここで現場のあるあるをひとつ。ステップ4の「打診」が来たとき、返事の期限が意外と短いことがあります。施設によっては「2〜3日以内にお返事を」と言われることも珍しくありません。空いたベッドを長く空けておけないため、施設側も早く次の方を決めたいのです。
だからこそ、打診が来る前に家族の気持ちを整理しておくことが大切です。「順番が来たら入所するのか、もう少し待つのか」を、あらかじめ家族で話しておく。そうすれば、急な連絡にも慌てずに答えられます。申込みは「準備」、打診への返事は「決断」——この二つを分けて考えておくと、心が軽くなります。
よくある質問
Q. 申込みしたら老健を出ないといけませんか?
いいえ、申込んだからといってすぐ老健を出る必要はありません。特養の申込みと老健の入所は別のものです。特養の順番が来て、実際に入所が決まったタイミングで老健を退所します。それまでは老健で待機しながら、相談員と退所の時期を調整していく形になります。
Q. 待機順は申込み順ですか?
多くの特養では、申込んだ順ではなく「必要度の高い方から」入所が決まります。介護度の重さ、認知症の状況、介護してくれる家族がいるか、在宅生活の困難さなどを点数化し、優先度の高い方から案内する仕組みです。つまり、あとから申込んだ方が先に入所することもあります。「早く申込んだのに進まない」と感じるのは、この仕組みのためです。
Q. 特養の打診を断ったら、次はもう来ませんか?
一度断っても、それで名簿から外れてしまうわけではないのが一般的です。多くの施設では、断った場合も待機は継続され、次の空きが出たときにまた打診が来ます。ただし施設によって運用は異なるため、断るときに「次の機会もお願いしたいです」と一言添え、扱いを確認しておくと安心です。
ポケットに入れて帰っていただきたい、ひとつだけ



この記事でいちばんお伝えしたいのは、これです。特養の申込みは、決断ではなく準備です。
申込書を出すことは、「親を施設に入れる」と決めることではありません。選択肢をひとつ増やしておく、というだけの行為です。実際に入所するかどうかは、順番が来たそのときに、家族の状況を見て決めれば大丈夫です。
「まだ早い」「かわいそうな気がする」という遠慮から申込みを遅らせて、いざ必要になったときに選べる施設がない——現場でいちばん切ないのが、この場面です。準備を先にしておくことは、親御さんを見放すことではなく、いざというときに落ち着いて選べる余白を残しておくこと。どうか、罪悪感を持たずに一歩を踏み出してください。



珈琲一杯分の時間、お付き合いいただきありがとうございました。
次の行動|今日からできること
最後に、今日から動ける具体的な3つをまとめます。どれも、電話一本・窓口ひとつから始められます。
・ケアマネジャーや老健の支援相談員に「特養の申込みを考えている」と伝える
・市区町村の窓口や地域包括支援センターで、特養の申込書を入手する
・候補になりそうな特養を2〜3か所リストアップして、見学の予約を入れる
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出典・参考
- 厚生労働省「特別養護老人ホームへの入所に関する指針について」(特例入所の取扱いを含む)
- 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定の概要」(介護老人福祉施設・介護老人保健施設の基本報酬等)
- 厚生労働省「介護保険負担限度額認定」に関する案内
※記載の要件・費用の目安は令和6年度介護報酬改定時点の情報です。待機期間・費用・運用は地域や施設によって異なります。最新の情報は担当ケアマネジャーまたは市区町村にご確認ください。
最終更新日:2026年8月







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