【1分診断】親は在宅復帰できる?施設か家か迷ったら

施設に言いたいことがあるとき——苦情の伝え方と、ちゃんと届く言い方

介護施設に苦情を伝える窓口の順番と、届く言い方を整理したインフォグラフィック

「これ、言ってもいいのかな」

施設に親御さんを預けているご家族から、そんな声をよく聞きます。おむつの交換が遅い気がする。呼んでも来てくれなかったと親が言っていた。着ている服が別の人のものだった。

気になることはある。でも、言ったら親が冷たくされるのではないか。そう思うと、言葉が喉の奥で止まってしまう。

この不安は、決して考えすぎではありません。大切な家族を24時間預けている以上、こちらは弱い立場だと感じる。その感覚は、私も家族側だったら同じように持つと思います。

私は老健(介護老人保健施設)の支援相談員として、家族からの苦情を受ける側にいます。

この記事では、その立場から正直に書きます。どこに、どう伝えると届きやすいのか。そして、伝えても変わらなかったときにどうするか、です。

目次

半年間、言えなかった——きみこさんの場合

きみこさん(仮名・58歳)のお父さんが老健に入所して、半年が経っていました。

気になっていたのは、面会に行くたびに髭が伸びていたことです。父はきれい好きな人でした。でも「そんな細かいことを言ったら、面倒な家族だと思われる」と考えて、言えないまま時間が過ぎました。

そのうち、気になることは増えていきました。前回話したことが次の職員に伝わっていない。父が「呼んでも来てくれない」とこぼした。きみこさんはメモも取らず、そのつど飲み込みました。

半年後、限界が来ました。面会室で、きみこさんは涙をこぼしながら半年分の不満を一気に話しました。話を聞いた私は、正直なところ、青ざめました。

私たちは、きみこさんが何ひとつ困っていないと思っていたからです。髭のことは、その日のうちに直せることでした。半年もかからずに。

きみこさんが悪いわけではありません。言いにくくさせていたのは、こちらの側です。ただ、この半年は誰の得にもならなかった——それだけは確かでした。

相談員の本音——言ってもらえた方が、助かります

これは施設をかばうための言葉ではなく、現場にいる人間の実感です。

私たちは、気づけていないことが本当に多い。100人近い入所者さんを、交代制のスタッフで支えています。「この方はこういう暮らし方をしてきた人だ」という情報は、家族しか持っていないことがあります。髭のことも、家族が言ってくれなければ気づかないままでした。

施設には苦情を受け付ける窓口を設けることが運営基準で定められています。苦情は「例外的なトラブル」ではなく、あらかじめ受ける前提で仕組みが作られている、ということです。

黙って我慢されているほうが、実はこちらも困ります。何も言われないまま関係が冷えていき、ある日突然「退所します」となる。そのときにはもう、直せたはずのことが手遅れになっています。

ただし、正直に書いておきます。言えばすべてが変わるわけではありません。人員配置や制度の枠組みで、どうしても難しいこともあります。それでも「伝えたことが記録に残る」だけで、次に同じことが起きたときの扱いは変わります。

「言ったら親が冷たくされる」——そう思わせている時点で、施設側の説明が足りていないのだと思っています。

どこに言えばいい?——窓口の順番

いきなり役所や外部機関に、と考える方もいますが、多くの場合は近いところから順に伝えたほうが早く解決します。順番を整理しておきます。

窓口 どんなときに 特徴
① 現場の職員 日々の小さな気になること いちばん早く直る。その場で確認できる
② 支援相談員 現場に言いにくい/何度も続くとき 家族と施設の間に立つ窓口役。記録に残る
③ 苦情受付担当・施設長 相談員に伝えても変わらないとき 施設として正式に対応する義務がある
④ 市区町村の介護保険担当課 施設内で解決しないとき 指導・助言の権限がある。匿名相談も可
⑤ 国保連/運営適正化委員会 公的な第三者に見てほしいとき 中立の立場で調査・あっせんを行う
(別ルート)ケアマネジャー 誰に言えばいいか迷うとき 家族側に立って施設に伝えてくれる

①〜③は施設の中、④以降は施設の外です。基本は①から始めて、変わらなければ一段ずつ上げていく。この流れが現実的だと感じています。

国保連(国民健康保険団体連合会)は介護サービスの苦情を受け付ける公的機関、運営適正化委員会は各都道府県の社会福祉協議会に置かれた第三者機関です。どちらも中立の立場で、無料で相談できます。

もうひとつ、担当のケアマネジャーに相談するという道もあります。ケアマネは家族側に立つ立場の人なので、「直接は言いにくいので、代わりに伝えてもらえますか」とお願いできます。これは十分にある選択肢です。

【ケアマネへの一言】「施設に気になることがあるのですが、直接だと言いにくくて。相談だけ乗ってもらえますか?」

届く言い方と、届きにくい言い方

ここが、この記事でいちばん書きたかったところです。

先に置いておきたいのは、言いにくいのは当然だということ。伝わらなかったのは、家族の言い方が悪いからではありません。ただ、届きやすい形というものは確かにあります。知っておくと、少し楽になります。

① 事実と要望を分ける

いちばん効くのがこれです。「いつ・何があったか」と「どうしてほしいか」を分けて話す。

たとえば「対応が雑ですよね」と言われると、受けた側は何を直せばいいのか分かりません。一方「先週の火曜、面会に行ったら父の髭が伸びていました。週2回くらい整えてもらえると助かります」なら、その日から動けます。

・事実:いつ・どこで・何があったか(できれば日付)
・要望:どうしてほしいか(具体的な形で)
・この2つが揃うと、施設は「対応」に変換しやすくなります

② 人を責めるより、仕組みを問う

「あの職員が悪い」という伝え方をすると、施設側の反応はどうしても防御的になります。人を守ろうとするからです。結果として、話が本題からずれて終わってしまうことがあります。

代わりに「どういう手順になっていますか」と仕組みを聞くと、話が前に進みます。個人の問題ではなく体制の問題として扱われ、改善が全体に及びます。もちろん、明らかに不適切な行為があった場合は、その事実を具体的に伝えてかまいません。

【切り出す一言】「責めたいわけではないんです。どういう手順になっているのか、教えてもらえますか?」

③ 感情を出してはいけない、という意味ではありません

ここは誤解されやすいので、はっきり書きます。冷静に、論理的に、と身構える必要はありません。

「悲しかった」「不安になった」という気持ちは、伝えていい情報です。むしろ私たちは、そこから家族が何を大事にしているかを知ります。きみこさんが涙をこぼしたあの日、私が理解したのは「お父さんはきれい好きな人だった」という一点でした。

避けたいのは感情そのものではなく、感情だけで終わってしまうことです。

気持ちを伝えたあとに「なので、こうしてもらえると助かります」を一言添える。それだけで十分に届きます。

④ 記録を残しておくと、話が早い

スマホのメモで構いません。日付と、気づいたことを一行。

「なんとなく最近おかしい」より「3月10日と3月17日、2回とも同じことがありました」のほうが、施設は事実として調べられます。写真が撮れる場面なら、それも記録になります。

きみこさんが半年分を一気に話したとき、日付が分からず確認できなかったことがいくつもありました。記録は、家族を守るためのものでもあります。

それでも変わらないとき

伝えたのに変わらない。同じことが繰り返される。そういうときは、無理に施設の中だけで解決しようとしなくて大丈夫です。

先ほどの表の④以降、市区町村の介護保険担当課や国保連に相談する段階です。「大ごとにしたくない」と迷う方が多いのですが、これらの窓口は処罰のためではなく、改善のために置かれています。匿名での相談も受け付けています。

そして、転所(別の施設に移ること)を検討するのも、逃げではありません。相性というものは確かにあります。担当ケアマネや相談員に「他の選択肢も考えたい」と伝えれば、情報を出してもらえます。

・施設の苦情受付担当・施設長に、正式な窓口として伝える
・市区町村の介護保険担当課に相談する(匿名可)
・国保連・運営適正化委員会という第三者窓口を使う
・担当ケアマネジャーに、間に入ってもらう
・転所という選択肢も、テーブルに乗せてよい

【改善を確認する一言】「先月お願いした件、その後どうなっているか教えてもらえますか?」

伝えたあとが、いちばん大事

伝えっぱなしにしないことをおすすめします。1〜2週間後に「あの件、どうなりましたか」と一度確認する。

これは施設を疑うためではなく、対応が本当に現場まで届いたかを確かめるためです。相談員が受けた話が、シフトの都合で全職員に共有されきらないことは、残念ながらあります。確認の一言が、その抜けを拾います。

そして、改善されたときは「助かりました」と伝えてもらえると、現場の空気が変わります。これは職員のためというより、ご家族のためです。言ったことが良い変化につながった経験が、次に言いやすくする。関係が固くなる前に回り始めます。

苦情を言う家族が「面倒な家族」なのではありません。何も言えないまま関係が終わってしまうことのほうが、私たちには痛い。

まとめ

・「言ったら親が冷たくされる」という不安は、考えすぎではない。言いにくいのは当然のこと
・相談員の本音としては、言ってもらえた方が助かる。気づけていないことが多いから
・窓口は①現場職員→②支援相談員→③苦情受付担当・施設長→④市区町村→⑤国保連の順が現実的
・ケアマネジャーに間に入ってもらう道もある
・届く言い方は「事実と要望を分ける」「人より仕組みを問う」「記録を残す」の3つ
・感情を伝えるのは悪いことではない。最後に「どうしてほしいか」を一言添える
・変わらないときは外部窓口、そして転所の検討という選択肢もある

珈琲一杯分の時間、お付き合いいただきありがとうございました。
メガネ

関連記事として、以下もよかったらどうぞ。

よくある質問

Q. 施設に苦情を言うと、親が冷たくされませんか?

その不安を持つのは自然なことです。施設には苦情受付窓口を置くことが運営基準で定められており、内容は記録として残ります。それでも不安な場合は、担当のケアマネジャーや市区町村の介護保険担当課を通じて伝える方法があります。匿名での相談も受け付けています。

Q. 施設の中で解決しないときは、どこに相談できますか?

市区町村の介護保険担当課、国民健康保険団体連合会(国保連)、各都道府県社会福祉協議会の運営適正化委員会が窓口になります。いずれも中立の立場で、無料で相談できます。処罰のためではなく改善のための機関です。

Q. 苦情を伝えるとき、どんな言い方が届きやすいですか?

「いつ・何があったか」という事実と、「どうしてほしいか」という要望を分けて伝えると、施設側は具体的な対応に変換しやすくなります。日付をメモしておくと、事実確認がスムーズです。気持ちを伝えることは問題ありません。

出典・参考

  • 厚生労働省「介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準」(苦情処理に関する規定)
  • 厚生労働省「介護保険制度における苦情対応の仕組み」
  • 国民健康保険中央会「介護サービスに関する苦情申立の手引き」
  • 全国社会福祉協議会「運営適正化委員会の役割」

※制度・窓口の内容は令和6年度介護報酬改定時点の情報です。具体的な相談先は、お住まいの市区町村または担当ケアマネジャーにご確認ください。
最終更新日:2026年9月

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この記事を書いた人

メガネのアバター メガネ 理学療法士、社会福祉士、ケアマネ

メガネ|現役の支援相談員
理学療法士・社会福祉士・ケアマネジャーの3つの国家資格・公的資格を持ち、介護老人保健施設(老健)で支援相談員として勤務。
介護の現場歴18年。リハビリ職と相談職の両方の視点から、老健の入所相談・在宅復帰支援に日々携わっています。このブログでは、現場で実際に受けた相談をもとに、介護に直面したご家族が迷わないための情報を発信しています。

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