「施設見学に行ったけど、なんか違った」——そう感じたことはありますか?
その直感を、私は大切にしてほしいと思っています。現役の老健相談員として多くの施設を見てきた立場から言うと、「感じが悪い」という印象は、たいてい根拠のあるものです。
この記事では、施設見学のときに私が「ここはやめよう」と感じる3つの場面を正直に書きます。それぞれに「なぜそれが問題なのか」を、PT・社会福祉士・ケアマネジャーとして18年現場にいる視点でお伝えします。
Fさんの話——「案内はとても丁寧だったのに、入居をためらった」
Fさん(仮名)のお父様(78歳・要介護2)は、自宅での一人暮らしが難しくなり、有料老人ホームへの入居を検討していました。
週末に2か所の施設を見学しました。どちらも担当者の説明は丁寧で、パンフレットも分かりやすかったそうです。でも1か所だけ、「なんとなく入れたくない」という気持ちが残ったと話してくれました。
後日、ケアマネに「見学中に何か気になる場面はありましたか?」と聞かれ、Fさんはこう答えました。「廊下を歩いていたとき、スタッフの方が利用者さんに『早く早く』と急かしているのを見た気がします」と。
それが「なんとなく」の正体でした。Fさんの直感は正しかったのです。
NG①——入口で、誰も迎えてくれない

施設に到着したとき、入口で声をかけてもらえましたか。「いらっしゃいませ」「こんにちは」——その一言があったかどうかは、施設を判断するうえで重要なヒントになります。
見学者への挨拶は、施設全体の文化を映す鏡です。入口で誰にも気づかれない、スタッフ同士が話し込んでいて視線すら向けてもらえない——そういう施設では、利用者への配慮も薄い傾向があります。
信頼できる施設は、見学者だけでなく廊下ですれ違う利用者にも自然に声をかけています。「おはようございます」「どちらへ?」という一言が日常的に飛び交っているかどうかを、見学中に意識して確認してみてください。
挨拶は「指導」では作れません。文化として根づいているかどうかは、見学の最初の5分でほぼ分かります。気持ちよく出迎えてもらえた施設とそうでなかった施設を比べると、入居後のイメージがかなり変わります。

【今日から使える一言】「入口で誰かに声をかけてもらえたか、一緒に確認してもらえますか?」→ 同行する方に事前にお願いしておくと、客観的に観察できます。
NG②——スタッフが、利用者を急かす・怒鳴る場面がある
見学中に、スタッフが利用者に「早く早く」「何やってるの」という声かけをしているのを目にしたとすれば、一度立ち止まって考えてみてください。
これは見学者がいる日のことです。施設にとって見学日は「良いところを見せたい日」のはず。その日にこういった場面があるなら、日常はさらに厳しい状況が起きている可能性があります。
PT(理学療法士)の視点から言えば、急かすケアは身体機能の維持の妨げになります。自分のペースで立ち上がり、歩くことが筋力とバランスの維持につながります。「早く」という声かけは、転倒リスクを高める要因のひとつにもなりえます。焦った動作は、バランスを崩すきっかけになるからです。
社会福祉士として言えば、スタッフの言葉遣いは「利用者をどんな存在として扱っているか」を映しています。特別な日に見せる顔が、普段の関わり方と大きく離れることはありません。見学日に見えるものが、日常の最低ラインだと思って判断してください。



【今日から使える一言】「見学中、スタッフの方が利用者さんにどんな声かけをしているか、一緒に見てもらえますか?」→ 同行する方に事前に伝えておくと、客観的な視点で確認できます。
NG③——「見せられない場所がある」と言われる
見学の案内中に、「こちらはご案内できません」と言われることがあります。
個室のプライバシーを守るために内部を見せない、というのは当然の配慮です。ただ、食堂・浴室・トイレ周りなど日常的に利用者が使う共用空間が「見せられない」という施設は、理由を確認する価値があります。
「清掃中のため」「他の利用者が休んでいるため」という明確な理由があるならわかります。でも、理由もなく複数の場所が見せてもらえない施設は、何かを隠している可能性があります。においや清掃状況など、直接見てほしくない状態があるときに起こりやすいパターンです。
相談員として正直に言うと、施設にも「見せ方の技術」があります。見せなくていい場所がある、という判断の背景を確認することは、入居を検討する家族として当然の権利です。「食堂と浴室の雰囲気を教えていただけますか?」と尋ねて、快く案内してもらえる施設を選んでほしいと思います。
逆に、これがある施設は信頼できる
「やめよう」の3つを書いたので、その逆も書いておきます。見学中にこういう場面があった施設は、前向きに検討してよいと思います。
・スタッフが利用者の名前を呼んでいる(「田中さん、こんにちは」)
・利用者がスタッフに自分から話しかけている(関係性が自然にある)
・「うちの課題はこういうところです」と正直に言える担当者がいる
・「今日は○○さんがデイに出かけていて静かです」など日常の様子を具体的に話してくれる
・「何でも質問してください」と言われ、実際に丁寧に答えてもらえる
施設の良し悪しは、設備の新しさや建物のきれいさではなく、スタッフと利用者の間にどんな関係性があるかに出ます。それが、見学のときに最も確認してほしいことです。
見学チェックリスト(6項目)
見学当日、以下の点を意識して確認してみてください。スマホのメモに保存して持参するのがおすすめです。
・入口でスタッフから挨拶があったか
・廊下ですれ違ったスタッフが目を合わせてくれたか
・スタッフが利用者に穏やかな言葉をかけているか
・見せてもらえない場所があった場合、理由を聞けたか
・担当者が質問に誠実に答えてくれたか(「分かりません」と言える人か)
・施設内の匂いが気になるレベルではなかったか
全項目が「○」でなくても大丈夫です。気になるポイントがあった場合に「なぜそう感じたか」を言語化するための道具として使ってください。
今日から動けること
これから見学に行く方は、このチェックリストをスマホに保存して持参してください。複数の施設を見る場合、見学後すぐに感じたことをメモしておくと比較がしやすくなります。
すでに入居中の施設が気になる方は、担当のケアマネまたは施設相談員に「日常の様子を聞かせてもらえますか」と連絡してみてください。
「感じが悪かった」という直感が残っているなら、その施設を候補から外してよいと思います。施設選びは一度で決める必要はありません。合わなければ、移る選択肢もあります。
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珈琲一杯分の時間、お付き合いいただきありがとうございました。メガネ
出典・参考
- 厚生労働省「介護サービス情報の公表制度」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/kouhyou/index.html
- 厚生労働省「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」
https://www.mhlw.go.jp/ - 一般社団法人全国老人保健施設協会「老健とは」
https://www.roken.or.jp/






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