面会に行ったら、親の食事だけ、見た目がまるで違っていた。
老健で支援相談員をしていると、この場面によく立ち会います。ご家族はたいてい、こう聞かれます。「これ、うちの親のごはんですか?」
老健にいると、食べる力の変化は高い確率で訪れる分岐です。それなのに家族には、ある日いきなり「どうしますか」と問われる出来事になります。
先にお伝えします。この記事は「胃ろうを作った方がいい/やめた方がいい」という話ではありません。

判断するのは医師と本人・ご家族です。私にできるのは、材料をそろえることだけです。
母のごはんがミキサー食になっていた——はるこさんの話
はるこさん(仮名・56歳)のお母さんは、肺炎で入院したあと、体力を戻すために老健に入所しました。入所時の食事は、少し柔らかめのふつうの形でした。
ひと月後の昼、面会に行くと、トレイには白・薄い黄色・うすい緑の、なめらかなペースト状のものが並んでいました。
その場では何も言えなかったそうです。あとで、こう話してくれました。「母がここまで来てしまったんだと、急に突きつけられた気がしました」
この気持ちは自然なものだと思います。食事の見た目は、家族にとって「元気さの目盛り」のようなところがあるからです。
ただ、はるこさんが知らなかったことがあります。ミキサー食に変わったのは状態が急に悪くなったからではなく、少し前からむせる回数が増えていて、安全に食べ続けるための調整だったのです。
食形態は、段階を追って下がっていく


食形態(しょくけいたい。食事の刻み方や柔らかさの段階)は、いきなり変わるものではなく、少しずつ段階を下げていきます。呼び方や区分は施設によって違います。
| 形態 | どういう状態のときに | 家族が感じやすいこと |
|---|---|---|
| 常食 | 噛む力・飲み込む力がおおむね保たれている | 家と同じものを食べられていると安心する |
| 一口大 | 大きいものを口に運ぶのが難しくなってきた | 見た目が変わらないので気づかないことが多い |
| きざみ食 | 噛む力が落ちてきた・義歯が合わなくなった | 刻まれていることに最初の衝撃を受けやすい |
| ソフト食 | まとまりのある形でないと飲み込みにくい | 見た目は料理の形。刻み食より食べやすい場合も |
| ミキサー食 | 噛む力がかなり落ち、なめらかさが要るとき | 何を食べているか分からないと動揺しやすい |
| ゼリー食 | 飲み込む力が弱く、少量ずつ安全に届けたいとき | 量の少なさに「これだけ?」と感じることがある |
家族が衝撃を受けやすいのは、きざみ食とミキサー食の2か所です。ただ施設の側は、「下げる」ではなく「合わせる」という感覚で見ています。今の飲み込む力に合った形にそろえる調整です。
また、段階は一方通行とはかぎりません。体調が戻ったり、義歯を調整したり、リハビリが進んだりして形態が上がることもあります。
なぜ形を変えるのか——誤嚥と誤嚥性肺炎
調整の理由は、誤嚥(ごえん。食べ物や飲み物が、食道ではなく気管に入ってしまうこと)を減らすためです。


気管に入ったものが肺に届くと、そこで炎症が起きることがあります。これが誤嚥性肺炎です。高齢の方の場合、肺炎をきっかけに体力が大きく落ちてしまうことがあります。
やっかいなのは、誤嚥が「むせる」形で出るとはかぎらない点です。むせずに静かに入ることがあり、これを不顕性誤嚥(ふけんせいごえん。気づかれにくい誤嚥)と呼びます。
だからこそ、「むせていないから大丈夫」とは言い切れないのです。食事中の様子、食後の声のかすれ、微熱、痰の増え方を、看護職や介護職が日々見ています。
・形態の調整は「悪化の宣告」ではなく「安全に食べ続けるための工夫」
・判断は言語聴覚士・管理栄養士・看護師・医師が状態を見ながら行う
・体調やリハビリの経過によって、形態が戻ることもある
食事の形が変わったと気づいたら、「どんな様子があって変えたのですか」と聞いてみてください。理由を聞くと、原因と経過が見えてきます。
意外に思われる話——水の方が、むせやすい
水分はさらさらと速く流れるため、飲み込む動きが間に合わず、気管の方へ流れ込みやすいのです。



「固いものは危ないけれど、水やお茶なら安心」と思われがちですが、実際は逆です。
そのため、とろみ剤で水分に粘度をつけるという調整をすることがあります。ゆっくり流れるようにして、飲み込むタイミングを合わせやすくするためです。
ただし、濃ければいいものでもありません。濃すぎると飲み込みにくくなり、水分をとる量そのものが減ることがあります。どのくらいが合うかは、専門職が状態を見ながら調整します。
食べる量が減ってきたとき、出てくる4つの選択肢
形態を調整しても、食べる量が減っていくことがあります。そのとき、栄養や水分をどう届けるかの話し合いが始まります。
ここでは、どれが正しいという書き方はしません。それぞれに向き・不向きがあり、本人の状態や意思、ご家族の考え方によって答えが変わるからです。


1. 口から食べることを続ける
量が減っても、食べられる範囲で口から食べ続ける考え方です。食べる楽しみが保たれやすい一方で、誤嚥のリスクや、栄養・水分が不足しやすい面があります。
2. 胃ろう(いろう)
おなかに小さな口を作り、胃に直接、栄養剤を入れる方法です。栄養を安定して届けやすい一方、造設(ぞうせつ。胃ろうを作ること)には身体の負担があり、その後の管理も要ります。
3. 経鼻胃管(けいびいかん)
鼻から胃まで細い管を通して栄養を入れる方法です。手術を伴わないため一時的な対応として選ばれることがありますが、管の違和感を訴える方もいます。
4. 点滴(末梢からの輸液)
腕などの血管から水分や電解質を入れる方法です。準備しやすい一方、この方法だけで長期に十分な栄養を届けるのは難しいとされています。
4つは「上から順に良い」という並びではありません。組み合わせて使われることもありますし、時期によって方針が変わることもあります。
胃ろうについて、家族が抱きやすい誤解
たびたび耳にする受け止め方が3つあります。
ひとつめは「一度作ったら、もう外せない」。実際には、状態が改善して抜去(ばっきょ。管を抜くこと)に至る方もいます。可能かどうかは主治医が判断します。
ふたつめは「胃ろうにしたら、もう口から食べられない」。状態によっては、胃ろうから栄養を入れつつ、口から楽しみとして少量を食べる併用が行われる場合もあります。判断は医師と嚥下の評価によります。
みっつめは「作らないと決めたら、見捨てることになる」。作らないという選択が、ケアをやめるという意味になるわけではありません。口から食べられる分を大切にする、苦しさを和らげる、といったケアは続きます。
胃ろうには「支えになる」という見方も「本人の負担になる」という見方も、どちらも存在します。私はここでどちらも勧めません。ご本人がどう生きたいと考えていたか、そこに立ち返る材料として、両方あるとだけお伝えします。



【医師に聞ける一言】「この選択をした場合と、しなかった場合で、何がどう変わりますか?」——比較で聞くと、説明が具体的になります。
老健では対応できないことがある
老健は医師が常勤する施設ですが、対応できる医療的ケアの範囲は施設ごとに違います。胃ろうや経鼻胃管の管理を受け入れる老健もあれば、体制の関係で難しい老健もある。同じ「老健」という名前でも、受け入れの条件はそろっていません。
そのため、状態や選んだ方法によっては、病院への転院や、別の施設への移動が検討される場合があります。見放されたのではなく、必要な医療を届けられる場所を探す、という意味合いです。



【相談員に聞ける一言】「この方法を選んだ場合、こちらの施設で続けて過ごせますか? 難しい場合はどんな選択肢がありますか?」
決めきれないご家族へ
ここまで読んでも決められない——迷うのは自然なことです。お伝えしたいのは2つ。



その場ですぐに答えを出さなくてよい場面が多いこと。
そして、いったん決めたあとで考えが変わってもいい、ということです。
「今日決めてください」と言われたように感じても、緊急性をまず聞いてみてください。今日中なのか、数日考えられるのか。それが分かるだけで、気持ちの余裕はずいぶん変わります。
方針は変えられます。選んだ方法が本人に合わないと分かれば、そこからまた話し合えばいい。現場では、そうやって何度も見直しています。
判断の軸に迷ったら、「自分ならどうしてほしいか」ではなく「あの人なら何と言っただろうか」と考えてみてください。元気だった頃の言葉や暮らし方に、手がかりが残っていることがあります。



【その場で使える一言】「今日この場で決めなければいけませんか? 家族で話す時間をいただけますか?」
相談員として思うこと
理学療法士として18年、老健の支援相談員として、たくさんの「食べられなくなる」場面に立ち会ってきました。正直に言うと、正解を見たことがありません。
胃ろうを作って、そのあと口から食べられるようになった方もいます。作らずに、家族に囲まれて穏やかに過ごされた方もいます。どちらのご家族も、迷い抜いて選んでいました。
ひとつだけ言えるのは、あとから苦しくなるのは選んだ内容そのものよりも「よく分からないまま流されて決めた」と感じたときだ、ということです。だから私は、材料をそろえることに時間をかけます。



決めることを急がされていると感じたら、そう伝えてください。伝えてもらえたら、私たちは立ち止まれます。
まとめ
・食形態は段階を追って調整される。「下げる」ではなく「今の力に合わせる」
・理由は誤嚥と誤嚥性肺炎を減らすため。むせない誤嚥もある
・水分の方がむせやすく、とろみで流れる速さを調整することがある
・量が減ったときの選択肢は、経口の継続・胃ろう・経鼻胃管・点滴。優劣の順ではない
・胃ろうは「外せない」「口から食べられない」と決まってはいない。判断は医師
・その場で決めなくてよい場面は多く、決めたあとで方針を変えられる



珈琲一杯分の時間、お付き合いいただきありがとうございました。
メガネ
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よくある質問


Q. きざみ食にすると、かえって危ないと聞きました
刻んだものは口の中でばらけやすく、状態によってはソフト食のようにまとまりのある形の方が食べやすいことがあります。どの形が合うかは飲み込みの評価をもとに専門職が判断しますので、気になる場合は施設に相談してみてください。
Q. 胃ろうを作るかどうか、家族だけで決めるのですか
家族だけで決めるものではありません。主治医の説明を受けたうえで、ご本人の意思を中心に、家族と医療・介護の専門職で話し合う形が一般的です。迷う場合は、説明の場をあらためて設けてもらえます。
Q. 面会のとき、好きだった食べ物を持っていってもいいですか
状態によって答えが変わるため、事前に施設へ確認してみてください。そのまま持ち込むのは難しくても、形を変えれば口にできる場合があります。「これを食べさせたい」と伝えてみてください。
出典・参考
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会「学会分類2021(食事・とろみ)」
- 日本老年医学会「高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン(人工的水分・栄養補給の導入)」
- 厚生労働省「介護老人保健施設の基本報酬及び加算について」(令和6年度介護報酬改定)
※制度・報酬に関する内容は令和6年度介護報酬改定時点の情報です。医療的な判断は、主治医および施設の専門職にご確認ください。
最終更新日:2026年9月









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